産業医通信 2022年11月号
毎月産業医の先生より旬の情報をお届けいたします。
Contents
●コレステロールは低くても大丈夫?
●「やせすぎ」のリスク
●若年層のがんについて
●海外赴任者の健康管理
コレステロールは低くても大丈夫?
血液中のコレステロールや中性脂肪が基準範囲から外れている状態を脂質異常症といいます。基準値より高い場合(高脂血症)は、動脈硬化のリスクを高め、放置すれば心筋梗塞や脳血管障害など動脈硬化性疾患の原因となるため、自分の値に注目されている方も多いと思います。
しかし、脂質が低すぎる場合(低脂血症)も要注意です。低脂血症は他の病気の結果おこってくる場合(続発性)と、遺伝子変化が原因で遺伝病としておこる場合(原発性)があります。
続発性低脂血症の原因としては肝硬変、バセドウ病などの甲状腺機能亢進症、癌などの悪性腫瘍、慢性の感染症、栄養不良、薬剤など様々なものがあります。脂質が低い分には問題ないだろうと、健康診断で低脂血症を指摘されても放置していないでしょうか。続発性の低脂血症として病気が隠れている可能性もありますので、指摘された方は一度内科を受診し、精密検査を受けることをお勧めします。
赤澤Dr.
「やせすぎ」のリスク
日頃肥満が問題にされることの多い本邦ですが、やせすぎもまた良くないことはご存知かと思います。
やせすぎは脂肪の減少による体温の低下、各種の欠乏症と栄養失調、易感染性といった問題を招きます。原因は極端なボディイメージの歪みがあるか、病的体重減少を伴う疾患があることです。
ボディイメージの歪みはやせ願望から無理な食事制限を行うことで、栄養失調から死亡に至ることも珍しくありません。また、抑うつや薬物の乱用を伴うこともあり、自殺のリスクもあります。周りの人の気づきが大切です。
病的体重減少は一般に半年で5%、もしくは5㎏以上の意図しない体重減少があることをいいます。
原因には甲状腺疾患、コントロール不良の糖尿病、潰瘍性大腸炎などの吸収不良を起こす疾患、慢性の炎症性疾患、悪性腫瘍などが有名です。
何日も気分が悪くて食べられない、同じように食べているのにやせ続ける、体重の増減が激しいなどがあるときは必ず病院を受診しましょう。
宮田Dr.
若年層のがんについて
思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult)世代とは、広くて15歳から39歳までを指します。この世代は、がんの罹患率や死亡率が最も低い世代であり、他の世代のがんと比較して情報が少なく見つけることが難しいことから不安を抱く人も少なくありません。
日本でのAYA世代のがんの発症者は、年代別にして15-19歳が約900人、20歳代が約4200人、30歳代が約16300人です(2017年)。AYA世代に多いがんの種類は、年代別にして15-19歳では小児期と同じように、白血病、リンパ腫、脳腫瘍、骨腫瘍など、20-29歳では性腺腫瘍、甲状腺癌、白血病など、30-39歳では乳がん、子宮頸がん、大腸がんなどです。がんと診断されて、病気や治療、治療の副作用や後遺症のほか、治療中や治療後の生活、学業や仕事、妊娠・子育て、介護などへの影響が出てきます。
がんに関する情報はたくさんありますが、すべて正しいとは限りませんし、また自分の状況に合った情報でないこともあります。得られた情報は医療者、がん相談支援センター、家族、患者支援団体などと相談してから利用するようにしましょう。
鈴村Dr.
海外赴任者の健康管理
我が国では「海外といえば感染症」というイメージが強くありますが、それ以上に生活習慣病をはじめとする持病の悪化が問題になることが多く、海外赴任者の健康問題は非常に身近なものになっております。
海外赴任者の健康対策の重点は「赴任前」にあるといって過言ではありません。海外での職務遂行には適切な健康状態に対する配慮が不可欠です。滞在期間が6ヶ月未満であっても健康上何らかの不安要素がある場合は、それに対する健診を行うことが望ましいでしょう。その他携行医薬品の準備方法、現地調達方法、英文(または現地語)の診断書作成、保険の加入状況などを出発前にチェックしておくのがよいでしょう。
予防接種は早めが肝要です。推奨される予防接種はA型肝炎、B型肝炎、破傷風などを含め多種あり、また各接種には必要な間隔と回数がありますので早めの対応が必要です。赴任中には医療相談窓口を設置し、国内勤務者と同水準の健康診断・ストレスチェックの実施が推奨されます。また帰国後には感染症発症の可能性の考慮や労働安全衛生法に基づく健康診断の実施が必要となります。ぜひ一連の流れを余裕をもってご確認ください。
古谷Dr.