産業医通信 2023年8月号
- 2023年8月2日
- 2023年11月8日
毎月産業医の先生より旬の情報をお届けいたします。
Contents
●「ウェルビーイング」について
●夏に流行する感染症
●脱毛症について
●甲状腺の病気
「ウェルビーイング」について
「ウェルビーイング」という言葉をご存じでしょうか?瞬間的な幸福である「ハッピー」とは違い、「ウェルビーイング」は持続的な幸福とされており、自身や周囲の状況について、「全体としてなんとなく良い状態」といったイメージです。
もともと世界保健機関(WHO)憲章の前文にもうたわれており、近年ビジネスの世界でも注目を集めるようになりました。
「ウェルビーイング」を高めると【①心身ともに健康な状態を維持することができる ②仕事へのやりがいが生まれる ③人間関係が良くなる ④仕事へのモチベーションが上がる ⑤仕事のパフォーマンスが上がる】等の仕事上のメリットもあると言われており、企業にとっても良い影響があると言われています。
「ウェルビーイング」を高めるためには、心理学の概念の一つである「PERMA(パーマ)」が参考になります。パーマとは、「前向きな感情を意識すること」「夢中になれる体験をすること」「人とのつながりを大事にすること」「自分なりの価値観に気付き、大事にすること」「少しずつ目標を達成すること」です。
ここですべてをご説明することはできませんが、これらを意識してぜひ「ウェルビーイング」を高めてみてください。
山本Dr.
夏に流行する感染症
夏にはいわゆる「夏風邪」と呼ばれる感染症が小児を中心として流行します。
咽頭結膜熱、ヘルパンギーナ、手足口病、流行角結膜炎の4つです。いずれもエンテロウイルス、アデノウイルスによる感染症で下記のような症状を示します。
病名 | かかりやすい年齢 | 症状 |
手足口病 | 2~3歳 | 38~39℃の発熱・手のひら、足、 口の粘膜などに5~7mmの小さな水疱 |
ヘルパンギーナ | 0~4歳 | 発熱・上あごの奥に周囲が赤くなった 数mmの小水疱 |
咽頭結膜熱(プール熱) | 1~5歳 | 発熱・咽頭痛・扁桃腺の腫れ・目やに |
流行性角結膜炎 | 1~5歳(成人も) | 結膜の浮腫(むくみ)・充血・ まぶたのむくみ・目やに |
特に今年はヘルパンギーナが6月以後急増しています。いずれも感染力は強く、咳による唾液などの飛沫や、便や水疱液を触ることによる接触感染で広がります。ほとんど重症化しませんが、有効な治療薬はなくうがい手洗いの基本的な予防策が重要です。
また今年の夏はコロナ感染症の再増加もみられており、さらに例年であれば秋以後に流行するRSウイルス感染(息ができない様な頑固な咳発作、乳児では呼吸困難になることも)もすでに流行が始まっており注意が必要です。
橋本Dr.
脱毛症について
「脱毛症」は、正常な毛の生え変わりよりも多い量の毛が抜け、毛がまばら又は完全にない状態のことです。代表的なものとしては円形脱毛症、男性型脱毛症があります。
【円形脱毛症】何らかのきっかけで免疫(本来は細菌などの外敵をやっつける働き)が自分自身の毛包周囲(毛を作るところ)を攻撃し毛が抜けます。突然、髪の毛、眉毛、ひげ、手足の毛などにできます。数ヶ月で自然治癒する方も多いですが、再発・多発・拡大する場合は早めに診察を受けましょう。
治療方法としてはステロイド局所注射・外用療法、局所免疫療法などがあります。
【男性型脱毛症】男性ホルモンの影響で毛周期(毛が成長したり抜けたりするサイクル)が極端に短くなり、短くて細い毛に変化することで薄毛になります。成年男性の約半数に生じ、病気というより加齢変化の一種であり、有効な治療方法の多くは保険診療で受けることができません。
これら以外にも先天性脱毛症、感染症、内科的な病気、薬剤や放射線治療の副作用でも脱毛症になりえます。
このように、脱毛症の原因は様々であり治療方法は原因によって大きく異なります。脱毛症が生じた場合にはお近くの皮膚科に相談しましょう。
鹿島Dr.
甲状腺の病気
甲状腺は頚部の気管前面にあり、蝶のような形をしており、ヨウ素を取り込んで甲状腺ホルモンを産生します。そのホルモンの働きは、代謝調節(エネルギーや栄養の調節)、成長と発育の促進、体温の調節、心血管系の調節などです。
甲状腺の病気としては①甲状腺ホルモンの分泌異常による機能障害 ②甲状腺腫瘍 ③甲状腺の炎症(甲状腺炎)などがあります。
①には甲状腺機能亢進症と機能低下症があり、自己抗体陽性の場合はそれぞれ、バセドウ病、橋本病と呼ばれます。甲状腺機能亢進症では、疲れやすい、発汗過多、頻脈、イライラする、体重減少、軟便などの症状がみられ、甲状腺機能低下症では、疲れやすい、体のむくみ、体重増加、徐脈、便秘、筋力低下、高コレステロール血症などがみられ、どちらも甲状腺の腫脹を伴うことが普通です。血液検査で診断され、治療は、機能亢進症では薬物療法や外科療法、機能低下症では薬物療法が一般的です。
②の甲状腺腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があり、ある程度大きくなるまでは自覚症状がないのが普通です。嚥下時の違和感や嗄声(しわがれ声)などで見つかることもあります。悪性腫瘍の多くは乳頭がんで、治療は外科療法が主で予後は比較的良好です。
③の甲状腺炎は原因別の対症療法が主となります。のどぼとけのやや下方の違和感やしこり、痛みなどがある場合は早めの受診をお勧めします。
本行Dr.
産業医通信2023-08