産業医通信 2025年2月号
- 2025年2月5日
毎月産業医の先生より旬の情報をお届けいたします
Contents
●冬季の寒冷環境と循環器疾患リスクへの対応
●脂肪肝について
●手根管(しゅこんかん)症候群とは
●職場復帰支援について
冬季の寒冷環境と循環器疾患リスクへの対応
冬季は、寒冷環境が血管の収縮や血圧の上昇を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中など循環器疾患のリスクが増加すると考えられています。
研究では、冬季は夏季に比べて血圧が平均して5~7mmHg上昇する傾向があり、高血圧患者ではさらに大きな差が見られる可能性が示唆されています。特に、高血圧や心疾患の既往がある作業者ではこれらのリスクが健康被害につながる恐れがあるため、企業には従業員の健康管理を適切に行うことが求められます。
リスクの高い作業者に対しては、産業医との面談を実施し健康状態を確認したうえで、必要に応じて作業配置を見直すことが望ましいとされています。また、寒冷環境での長時間労働を避け、早朝や夜間の作業を控えるなど作業スケジュールに配慮することも重要です。さらに、防寒対策として防風性・保温性の高い作業服の支給や暖房設備を整えた休憩所を提供することで、従業員が安心して働ける環境を整えることが求められます。
これらの対策を講じることで、循環器疾患リスクの軽減につながり作業者の健康と安全を守ることが期待されます。
山本Dr.
脂肪肝について
脂肪肝とは、脂肪が肝臓に過剰に蓄積して肝臓全体の30%以上を占めるようになった病気です。
脂肪肝の原因としてはお酒の飲み過ぎや食べ過ぎが知られています。飽食の現代においては3人に1人が脂肪肝と推計されています。
近年、軽い病気と考えられていた脂肪肝が、肝硬変や肝臓がんへの進行リスクを高めることがあきらかとなりました。また脂肪肝患者に、狭心症などの心臓病を合併する割合が高いことから、生活習慣病の温床となることも知られてきており、脂肪肝の放置は危険であることの注意喚起がされています。思い当たる方は健康診断結果を見返していただき、肝機能ALT値が20以上で脂肪肝予備群とお考えください。
生活習慣が原因の脂肪肝は、適正のカロリー摂取やスナック菓子などの間食を止めること、毎日30分程度の散歩のような運動や禁酒によって、肝臓に蓄積された中性脂肪が減り肝臓機能が改善します。
セルフケアとして悪い生活習慣を断つことが必要です。
松Dr.
手根管(しゅこんかん)症候群とは
手首の骨と靭帯に囲まれた手根管というトンネルがあり、この中を複数の腱や正中(せいちゅう)神経などが通っています。この正中神経は、親指から薬指の親指側にかけての感覚や親指の動きなどをつかさどる神経なので、圧迫されると小指以外の指先にしびれや痛みが出現します。進行すると筋肉も影響を受けて、物を掴んだりつまんだりする親指と他の指を向かい合わせにする動作(対立運動)が困難となり、ボタンのかけ外しなど日常生活に支障をきたすようになることがあります。
原因として、手首の曲げ伸ばしを繰り返し、手首に負担のかかるような動作をすることで、手根管の中を通る腱を覆う膜などが炎症を起こし腫れる場合や、手首の運動とは関係なく手根管が狭くなる場合があります。(例えば、長期間透析によるアミロイド沈着や関節リウマチなどによる炎症など)あるいは、糖尿病による正中神経そのものの障害、その他、甲状腺疾患や妊娠などが原因となることもあります。
簡単な検査としては、手関節の手のひら側を叩くとしびれ・痛みが指先に響く「Tinel(ティネル)サイン」と、体の前で両手の甲を合わせて1分間その状態を保つとしびれを感じたり、そのしびれ感が強くなる「Phalen(ファーレン)テスト」があります。
治療は程度によりますが、手首の安静と固定が基本です。進行すると抗炎症薬などの注射や手術が必要となってきます。
本行Dr.
職場復帰支援について
職場復帰支援は、育児休業や介護休業、病気やケガなどで一時的に職場を離れた従業員が、再び職場に戻り働きやすい環境を整えるための取り組みです。この支援は従業員個人の負担軽減だけでなく、職場全体の活力向上にもつながります。
主な支援内容には、休業中の情報共有や復帰前の面談、復帰後の勤務体制の調整が含まれます。
具体例として、短時間勤務やフレックスタイム制の導入、長時間労働や深夜勤務の免除、危険作業の回避といった配慮が挙げられます。健康面や安全面に不安がある場合は、産業医や上司、関係部署の担当者が連携し、個々の状況に応じた負担軽減策を講じることが重要です。
さらに、メンタルヘルスのケアも欠かせません。復帰に伴う不安を軽減するため、カウンセリングや相談窓口を活用することも有効です。また同僚や上司に対しても、復帰者への理解を深めるための研修や説明会を行うことで、職場全体の支援体制を強化することができます。
職場復帰支援は、従業員が安心して働ける環境を提供するとともに、離職率の低下や生産性向上といった企業全体の成長にもつながります。
この取り組みを通じて、より良い職場づくりを目指しましょう。
額田Dr.
産業医通信2025-2