産業医通信 2024年8月号
- 2024年8月16日
毎月産業医の先生より旬の情報をお届けいたします
Contents
●ペットボトル症候群(ソフトドリンクケトーシス)について
●熱中症対策
●化学物質による労働災害
●慢性腎臓病とは
ペットボトル症候群(ソフトドリンクケトーシス)について
ペットボトル症候群とは、甘いジュースやスポーツドリンクなど大量の糖を含むソフトドリンクを多く摂取することで発症する病気(急激に発症する糖尿病)で、「ソフトドリンクケトーシス」と呼ばれます。
コーラ500mlのペットボトルで角砂糖(1個4gとして)14個分、スポーツドリンク500mlで角砂糖6~8個分の糖を含みます。ソフトドリンクを飲むと、糖により血糖値が上がります。血糖値が上がるとのどが渇き、また飲んでしまい、さらに血糖値が高くなる悪循環に陥ります。高血糖の状態が続くと「ケトン体」という物質ができ、これが増えると血液が酸性に傾きペットボトル症候群の症状が現れます。多尿や倦怠感やイライラからはじまり、重症化すると意識がもうろうとなり、昏睡状態や死に至る恐れもあります。糖尿病の方、糖尿病の可能性を指摘されている方、メタボの方も発症リスクが高いですが、若い男性で日常的にジュースを大量に飲む人も罹りやすいです。
ペットボトル症候群にならなくとも、ソフトドリンクの多飲は糖尿病のリスクを高め健康に良くありません。熱中症予防に水分・塩分補給は非常に重要ですが、糖分の多い物は1日に何本も飲まないようにしましょう。
山本Dr.
熱中症対策
以下の5つの項目について大まかにご紹介いたします。
①体を暑熱環境に適応(=暑熱順化)させましょう。高温多湿環境での作業を行う場合、事前に1週間以上の順化期間を設けることが望ましいです。高温多湿環境にばく露する時間を次第に長くしていくことで、汗の性質が変化し熱中症になるリスクを下げることができます。
②暑さ指数(WBGT)を把握しましょう。専用の測定器で計測することができます。熱中症のリスクが高い環境かどうかを把握することで、対策を検討することができます。
③作業環境・作業内容を整えましょう。室内では冷房や除湿、屋外では簡易な屋根の設置、通風設備やミストシャワー等でWBGTを低減させる対策を検討します。作業時間を短縮する、休憩の頻度を増やすなどの対策を取り、涼しい休憩場所を確保します。作業内容によっては中止を判断することも重要です。作業前には水分補給を行い、汗をかいたら水分と塩分を取りましょう。
④服装に注意しましょう。透湿性(蒸れにくさ)・通気性の良い服装を着用します。クールベストの着用も有用です。
⑤健康管理を行いましょう。糖尿病・腎不全・高血圧症・皮膚疾患・心疾患・精神疾患など、持病によっては熱中症の発症に影響を与えるおそれがあります。持病があり作業に不安がある場合は、産業医への相談をご検討ください。日常の体調管理も熱中症予防に重要です。睡眠不足・風邪などの体調不良・二日酔い・水分不足や食事抜きは熱中症発症のリスクとなります。
普段から規則正しい生活習慣を心がけ、作業やレジャーの前には必ず体調確認を行いましょう。
額田Dr.
化学物質による労働災害
事業場にある化学物質による爆発・火災・破裂、またはその接触による皮膚や眼に対する障害が発生しています。近年、化学物質による休業4日以上の労災事故は年間500件前後と高い発生件数が続いています。また、労働者数が50人未満の小規模な事業場が災害件数の過半数を占める現状があります。このような化学物質による労働災害件数の高止まり、小規模事業場対策の必要性があることなどから令和4年に労働安全衛生法令の改正が行われました。
改正の内容としては①危険性・有害性に関する情報伝達の強化②リスクアセスメント③化学物質取り扱い管理体制の強化④リスクアセスメント対象物質に関する健康診断の実施など健康管理事項、以上4点です。なかでも化学物質の危険性・有害性に関する情報の伝達と共有は最重要なものに位置付けられています。事業場においては、取り扱う物質についてリストアップしたら、次いで「職場のあんぜんサイト」あるいは「NITE-CHRIP」などから危険性・有害性に関する情報をご覧ください。
その際に、併せてリスクアセスメント対象物質に該当するか否かについても確認していただくことをおすすめします。
化学物質を安全に取り扱うための情報は、「ケミガイド|職場の化学物質管理の道しるべ」などのWebサイトで得られますので、ご参照いただければ幸いです。
松Dr.
慢性腎臓病とは
腎臓は、尿の生成、血液中の老廃物や毒素の除去、(血圧・赤血球産生・Ca代謝に関連した)ホルモン産生・調節、体液pHの安定維持等の様々な作用を有する重要な臓器です。
慢性腎臓病(CKD)は、何らかの原因によって腎臓のこれらの機能が低下する病気で、成人の8人に1人いると考えられており新たな国民病と言われています。推算糸球体濾過量の低下(eGFR<60)や蛋白尿など腎臓の異常が、3か月以上続いた場合に診断されます。
慢性腎臓病の原因としては、糖尿病、高血圧症、肥満、慢性腎炎・ネフローゼ症候群など腎臓自体の病気、膠原病、感染症、化学物質、遺伝、遺伝性の異常、加齢など多岐にわたります。軽症の場合には無症状のことがほとんどですが、腎機能の低下が進むとむくみ・夜間尿・倦怠感・食欲低下・嘔気・手足のしびれ・貧血などの症状が出てきます。
治療に関しては今後の腎機能低下の進行を抑え、現在の腎臓の機能をなるべく維持し長持ちさせることが目標となります。進行し、腎不全になると体内から老廃物を除去することができなくなり、最終的に透析療法や腎臓移植が必要となるので、なるべく早期に発見し進行を遅らせる治療を開始することが大切です。
原因となっている治療に加え、共通の治療として生活習慣病があると腎機能低下が速く進むことが分かっています。
規則正しい生活・食事管理・血圧管理などを行い、体重を適正に保つ、塩分や糖分の過剰摂取を控える、食べ過ぎない、禁煙する、適度な運動をするなどの適切な生活習慣の維持がとても大事となります。
本行Dr.
産業医通信2024-08